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2019/1/19ベルリン放送交響楽団 指揮者ウラディーミル・ユロフスキー インタビュー

今、欧州を席巻する指揮者ウラディーミル・ユロフスキーが、2017/18シーズンより芸術監督を務めるベルリン放送交響楽団とともに3月に来日。
楽団や今回のプログラムについて語ったインタビューをお届けします。


ベルリン放送交響楽団に対する印象についてお尋ねします。今と昔とではどのような違いがありますか?
私がまだ幼い頃に、父がこのオーケストラを指揮しているのを聴いたときが最初です。
その後も父、ミハイルのリハーサルやコンサートで何度も演奏を聴きました。80年代の終わりから90年代の初め頃のことです。その後私がデビューしたての頃に、何度か指揮をさせていただきました。
1995年に急遽代行で指揮をしたときに、現代作品の多い難しいプログラムを振ったことがきっかけで、以来何度も声をかけていただくことになりました。その頃からベルリン放送交響楽団は優れたオーケストラではありましたが、東ドイツの社会主義的なメンタリティーを引きずっていたように思います。とはいうものの、とても豊かな音楽性があり、真摯に取り組んでいるという好印象を持ちました。その次にベルリン放送交響楽団と会ったのは、ヤノフスキさんが首席指揮者を数年間にわたり務められた後で、技術的にもかなり向上していました。幸いに、音楽に対する情熱と柔軟な姿勢は以前のままでした。楽員の顔ぶれも変わり、今や東ドイツのオーケストラではなく、世界各国の音楽家から成る、国際色豊かなドイツのオーケストラに生まれ変わっています。

ベルリン放送交響楽団の音色については、如何でしょうか?
いかにもドイツらしい豊かな弦、そして管楽器の響きを誇っています。一番相性がいいのがブラームスやワーグナー、ブルックナー等ですが、ドイツやロシアのロマン派音楽全般に適していると思います。

今シーズンのテーマは「マーラー」ですね。マーラーへの想いをお聞かせくださいますか?
私を最初に虜にした作曲家の一人が、マーラーです。15歳、16歳頃の頃に夢中になりました。マーラーの交響曲を指揮したいがために、指揮者になったと言っても良いでしょう。来日公演では、マーラーの楽曲だけでなく、マーラー編曲によるベートーヴェンをも取り上げます。お客様には、作曲家としてだけでなく、指揮者としてのマーラーに着目していただけると思います。私にとってマーラーは、20世紀の音楽を理解する上で重要な鍵です。後期ロマン派に分類されるものの、マーラーは現代音楽への道を切り開いた作曲家です。ですので、21世紀の人間である私にとって、マーラーは19世紀から20世紀への変貌を理解するのに不可欠な存在です。

ベートーヴェンの交響曲第7番(マーラー編曲)を取り上げられます。なぜ、その作品を選ばれたのでしょうか?
ベートーヴェンの交響曲第7番は、クラシック音楽の中で最も人気のある楽曲の一つです。
マーラー編曲版という新たな視点を通して、その新しい魅力を紹介したいと思っています。
マーラーだけでなく、多くの人がベートーヴェンのオーケストレーションに手を加えています。R.ワーグナーやマーラーと同年代に活躍した、指揮者フェリックス・フォン・ワインガルトナーも編曲しています。中でも、偉大な指揮者であり、作曲家であったマーラーの編曲はかなり過激だと思います。それはベートーヴェンと対等なスタンスを取っています。
マーラーは、ベートーヴェンの通常の編成よりも楽器を増やし、大編成のオーケストラ向けに編曲し直しました。それを聞くと、70年代、80年代のカラヤンとベルリン・フィルの頃の演奏を彷彿とさせるかもしれません。でも、カラヤンが指揮者としての視点から楽器を増やしたのに対し、マーラーは作曲家として臨んでいます。音は一切変えておらず、ベートーヴェンが作曲したままですが、オーケストレーションを徹底的に見つめ直しています。そこが他の編曲版との大きな違いだと思います。マーラーの編曲により、音楽のスケールが格段に豊かになっています。私たちは今、ピリオド楽器による速いテンポの演奏に慣れていますが、マーラー版はテンポがより遅く、重厚な印象を与えます。大編成のオーケストラであるからだけではなく、マーラーが指定したボウイングによるところが大きいと思います。音楽の本質は、ベートーヴェンであることに変わりありませんがより豊かな響きを持つ、ロマン派よりの音楽になっています。ベートーヴェンの交響曲であることに変わりないのですが、マーラーによって色彩感がぐっと増しています。

ソリストのレイフ・オヴェ・アンスネスについては、どの様な印象をお持ちでしょうか?
レイフ・オヴェ・アンスネスとは、昔からのパートナーであり友人です。これまでに何度も共演し、色々な作品を取り上げてきました。最近では、ラフマニノフのピアノ協奏曲第4番とドビュッシーのピアノと管弦楽のための幻想曲で共演しました。とても面白い、型破りの演奏家だと思います。アンスネスは、音楽を実に深く探っていきます。独奏パートだけでなく、協奏曲全体について明確な視点を持っています。弾き振りをすることが多いだけあって、オーケストラに対する要求も、とてもはっきりしています。今回再び共演できることを楽しみにしています。特に彼のこのブラームスは絶妙です。ブラームスのピアノ協奏曲第1番はこれまで共演したことがありません。第2番の方は、私が率いるロンドン(ロンドン・フィル)のドイツ公演で演奏しましたが第1番は今度の日本公演が初めてとなります。


今後のベルリン放送交響楽団の方向性について、教えてください。
日本公演のあと、ベルリンに戻ってシーズンを終えます。今シーズンのテーマは「自然」です。
自然は何世紀にもわたる芸術の永遠のテーマです。しかし、私たちはそれだけでなく、深刻な問題となっている地球規模での気候変動に焦点を当てたいと考えています。それにより人々に、自然を敬い、守ることの大切さについて少しでも考えていただくきっかけになればと考えています。クラシック音楽で世界を変えようなどとは考えていません。でも、私たちのコンサートにより、空気汚染を防ごうとする人が少しでも増えれば目的は達成できたと思います。私たちはコンサートを通して、ベルリンだけでなく、ドイツ、ヨーロッパ、そして世界中で自然保護活動に取り組んでいる団体や企業と協働しています。
秋には、ブカレストのジョルジュ・エネスク国際音楽祭に参加する予定です。演奏される機会が少ないエネスクの名曲、交響曲第3番を含むプログラムを披露します。他にもR.シュトラウスのオペラ「影のない女」をコンサート形式で行う予定です。2019年は、この素晴らしいオペラが初演されてから100年目にあたります。ご存知のように、このオーケストラはヤノフスキさんが首席指揮者の頃、多くのオペラをコンサート形式で演奏しています。R.シュトラウスの名曲、「エレクトラ」や「ダフネ」も上演しましたが「影のない女」はこれまで演奏したことがないので、とても楽しみにしています。そしてもちろん、ベルリンでのコンサートや世界各国でのツアーも控えています。アメリカや中国、ヨーロッパ各国を回る予定です。

マエストロは、2021シーズンよりバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任されます。
オーケストラにとって、オペラの作品に取り組むことのメリットがあれば教えてください。

(バイエルン国立歌劇場の現在の音楽監督は、次期ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督キリル・ペトレンコが務める)

過去の偉大なオーケストラはどれもオペラの演奏が中心で、その傍で管弦楽曲のコンサートを行なっていました。オーケストラにとって大切なのは、室内楽、交響曲、オペラとそれぞれバランスよくやることだと思います。オペラは楽器だけでなく、歌手との共同作業です。テキストもあるので、それだけ具体的で明確なイメージを持って演奏に臨むことができます。ですので、作曲家が書いたオペラを学ぶことで、その交響曲への理解が増すという直接効果があると思います。例えばR.シュトラウス。そのオペラに精通していれば、「アルプス交響曲」や「英雄の生涯」、「ドン・ファン」をどう演奏するべきかが分かります。R.シュトラウスの根底はオペラにあるからです。同じことがモーツァルトにも言えます。モーツァルトの交響曲や協奏曲はつかみにくいところもあります。でも、そのオペラを分析し、登場人物やテキストと調性やメロディー、リズムとの相互関係を見ていくと、交響曲をどう解釈すべきかが自ずと見えてきます。ですので、交響曲とオペラを並行して取り組むことのメリットは実に大きいと思います。

日本の聴衆、日本公演への期待をお聞かせください。
来日はまだ一回のみです。2017年のロンドン・フィルとの公演の時です。でも日本で演奏することは昔からの夢でした。父は、私が小さい時にツアーで来日しており、お土産話をたくさん聞かせてくれました。それ以来、日本は私の中では特別な存在で、2017年にようやく夢が実現しました。日本という素晴らしい国を再び訪れ、日本の聴衆と再会できることを楽しみにしています。日本の方は礼儀正しく、熱心に聞いてくださり、拍手を惜しまないですね。

ベルリン放送交響楽団
2019年3月24日(日) 2:00PM
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール